売春、
賭博、
麻薬、
堕胎、
ポルノ、自殺、不法移民、武器の所持などが典型例として挙げられる。シャーなどによれば「被害者がいないにもかかわらず、社会道徳的に悪であるから、あるいは社会的法益を侵害するからなどという理由により、これを処罰の対象としている国家が多い」との提起がなされた。そして、個人の
自由を広く認める立場や、この類の活動の違法化は裏社会の温床となり、二次犯罪が多発して社会的被害が大きいとする立場から、これを
非犯罪化ないし非刑罰化すべきである旨の主張がなされている。
日本でも、
売春防止法は「
ザル法」と評され、
母体保護法により
堕胎罪が死文化しているなど、国民の自由と刑事規制の間で揺れ動いている。この意味で、被害者なき犯罪は
ボーダーライン上ないしグレーゾーンにある犯罪類型であると評価できる。もっとも、本当に被害者がいないとは断言できない。例えば堕胎においては、医師と母親の同意があるとしても、胎児が被害者であると考えることもできる。麻薬においては、麻薬使用者自身が被害者ともいえる。ポルノは青少年の健全育成、麻薬は中毒者の保護などが間接的な問題となりうる。ゆえに、個々の犯罪類型の具体的な検討が求められる一方、国民の
自由を重視するのか国家の刑事的介入を重視するのかという、巨視的な観点からの検討も必要である。
また、「被害」の有無にかかわらず、被害者とされる人間が起こす犯罪であるため、刑事的介入が難しく、違法化はより悲惨な結果を招くとの批判もある。たとえば、違法化しても売春の根絶は難しく、結果として、売春婦が危険で不衛生な状態の下、裏社会に搾取されるなどの問題も指摘されている。この反省から、欧州では
公娼制度を復活させた国もある。麻薬に関しても、原則合法化の下で、医者から処方することにして管理する方が、関連犯罪の減少、更に税収のメリットなどがあり、合理的だと主張する意見もある。また、特に米国では、麻薬の取り締まりがザル法と厳格対処の間を揺れ動く間に、膨大な数の人間が麻薬取締法で摘発され、先進国としては類をみない受刑者人口の一因となっている。これが麻薬合法化で一挙に解決するとする主張もある。一方で、そのようなことをすれば、社会秩序の崩壊を招くとの反論も存在する。ヨーロッパのいくつかの国では、麻薬中毒者に医師の監視の下、麻薬を提供するクリニックが実験的に運営されている。